イギリスの人口は約6000万人で今後も緩やかに増加し続ける傾向といわれます。人口の減少が始まっている日本とはちょっと違います。社会の高齢化もゆる やかで、65歳以上高齢化率は2005年時点で16.0%(日本20.2%)で、2050年になっても、現在の日本の高齢化率(23.2%)までようやく 達する程度。その時日本は既に40%超えの未知の世界に足を踏み込んでいると言われます。
長いキリスト教の歴史の影響で、身寄りのない高齢者、障害者、孤児を教会が寄付、献金で引き取り手となってきて、これを地方の税で支援するという考え方 で、コミュニティケアが継承されてきたお国柄のイギリスです。歴史上初の生活保護法エリザベス救貧法(1600)が施行されたのもイギリスです。農村の不
作で出稼ぎに来た労働者による都会のスラムでの治安の悪化が問題となりその沈静化が制定の目的でしたが、税金で国が負担して救済をする初めての制度でし た。
「ゆりかごから墓場まで」というスローガンで第2次大戦後も、国民の生活を保障すべき責任は国にあると、福祉国家の道を歩み続けて来た、福祉先進国のお手本です。
税財源で原則無料でサービスを提供する医療制度、社会保険方式に基づく年金制度、自治体が中心的な役割を果たす福祉制度と、「公」の関与度や国と自治体の 役割分担が制度ごとに様々であるのがイギリスの社会保障です。また、社会保障は雇用政策とも一体的に政策展開されており、積極的な雇用促進、就労促進のた めの給付内容の見直し、低所得者への重点的な財源配分といった施策が併せて推進されています。日本が既に見習っている、または今後見習うべき施策がその中 にあるような気がします。
日本では医療保険、介護保険といった保険制度がありますが、イギリスでは医療や高齢者・障害者福祉サービスは、保険制度ではありません。社会保険としてあるのは、国民保険(National Insurance)に一元化された所得保障制度だけです。
ではどうなっているかというと、イギリスの医療サービスは国の負担で通常はすべて無料で受けられるのです。そして
イギリスでは自分が診てもらう医者があらかじめ登録されています。
専門医の診察を受けたいと思った場合は、まず、その医者に診てもらい、その医者の判断で必要に応じ大きな病院の専門医が紹介され、はじめて専門的な診療が受けられるという仕組みだそうです。登録する医者は一般家庭医(General
Plractitioner)と言われます。さしずめ日本の”かかりつけ医”ですね。最近日本の大学病院で紹介状が無い場合、初診料が3000円程度かかったりしますが、これもどこか似ている気がします。ある意味、医者を主体的に選択出来るという点では日本の方が優れていると言えるでしょう。
福祉サービスは自治体が個々のサービス毎に利用申請を受付け、審査し必要と判定された場合、直接自治体からサービスが提供されはじめます。サービス提供する業者は自治体直営業者から民間サービスへと移行してきているそうですが、費用は医療的サービス以外はすべて原則利用者自己負担です。民間サービス業者の選択は自治体が行っています。日本の場合はというと、介護認定の窓口は自治体、介護度の軽い要支援の方は社会福祉協議会所属ケアマネージャーにより受けるサービス業者の紹介を受けます(利用者選択の自由はあります)。ここまではよく似ていると言えます。しかし要介護の認定がされるとサービス業者はケアマネージャーという仲介的存在がありますが利用者が自己選択するようになっています。選択の自由を日本は重視しているといえるでしょう。
高齢者の疾病予防とケアの改善に関するガイドラインが策定され、各種福祉サービスの水準を向上させるためのケア基準(入所施設基準など各種サービス基 準)が整備され、入所施設、民間病院、在宅ホームヘルプサービスの監督や、地方自治体が提供するサービス全般の評価をする第3者機関社会ケア監査委員会 CSCI(Commission for Social Care Inspection )、福祉専門職の登録や行為規範の策定などが行われています。福祉国家のあるべき姿はどのようなものになるのか、イギリスに学ぶべき点は多い気がします。
(保険医療経営大学 学長ブログ参照)
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